その異変は、ある冬の夜、突然始まりました。私が寝室で本を読んでいると、静まり返った部屋の天井から、カタカタカタ…という、小さな、しかし明らかに何かが走り回るような音が聞こえてきたのです。最初は、家の外の音か、あるいは気のせいだと思いました。しかし、その音は、毎晩のように、決まって私が寝静まろうとする深夜に聞こえてくるようになりました。時には、ガリガリと、何か硬いものをかじるような音も混じります。妻もその音に気づき始め、「なんだか気味が悪いわね」と、不安そうな顔をするようになりました。私たちの安眠は、完全に妨げられました。私は、意を決して、昼間に天井裏を覗くための点検口を開けてみました。懐中電灯で照らした先に見えたのは、断熱材が、まるで誰かに引きちぎられたかのように、無残に散らばっている光景。そして、その上には、黒くて小さな、米粒のようなふんが、無数に転がっていました。ねずみだ。私は、直感的に悟りました。自分たちで粘着シートを買ってきて、天井裏に仕掛けてみましたが、賢い彼らは、それを巧みに避けて通ります。音は、日を追うごとにひどくなり、ついには、日中でも聞こえるようになりました。私たちは、もはや自分たちの手に負えないことを悟り、プロの駆除業者に助けを求めることにしました。調査に来てくれた業者の方は、天井裏の状況を一目見るなり、「ああ、これはクマネズミですね。かなり数が増えていますよ」と、冷静に告げました。そして、壁の隙間や、エアコンの配管周りなど、私たちが思いもよらなかった侵入経路を、次々と指摘していきました。駆除と封鎖工事には、20万円近い費用がかかりましたが、私たちは迷わずお願いしました。作業が終わり、その夜、我が家に訪れた、完全な静寂。天井から何の音もしないという、当たり前だったはずのその平和が、これほどまでに有り難いものだったとは。あの天井裏の足音は、家の安全が静かに蝕まれていく、恐怖の序曲だったのです。