ゴキブリのライフサイクルは、大きく分けて「卵」「幼虫」「成虫」の三つのステージから成り立っています。私たちが普段目にするのは主に成虫ですが、その成虫になる前の「幼虫」期も、ゴキブリの生態を理解する上で非常に重要な期間です。ゴキブリの始まりは「卵鞘(らんしょう)」と呼ばれる硬いカプセル状の卵ケースです。メスの成虫は、この卵鞘を安全な場所に産み付けます(チャバネゴキブリのように孵化直前まで持ち運ぶ種類もいます)。卵鞘の中で、卵は外部の乾燥や衝撃から守られながら発生を進めます。種類や環境条件によって異なりますが、数週間から数ヶ月の期間を経て、卵鞘の中から多数の幼虫が一斉に孵化します。孵化したばかりの幼虫(一齢幼虫)は、体が非常に小さく、色も白いことが多いですが、すぐに脱皮してその種類固有の色(多くは黒っぽい色)になります。ここから成虫になるまでの期間が「幼虫期」です。幼虫期の最大の特徴は、「脱皮」を繰り返して成長することです。ゴキブリは昆虫なので、硬い外骨格に覆われています。成長するためには、この古い外骨格を脱ぎ捨て、新しい大きな外骨格を形成するという脱皮が不可欠です。脱皮の回数は種類によって異なり、クロゴキブリで8回から10回程度、チャバネゴキブリで5回から7回程度と言われています。脱皮直後の幼虫は、一時的に体が白っぽく、柔らかい状態になりますが、時間と共に硬化し、色も濃くなります。幼虫は、成虫とほぼ同じものを食べ、同じような場所に潜んで生活しますが、翅(はね)がないため飛ぶことはできません。ひたすら餌を食べ、脱皮を繰り返して体を大きくしていきます。幼虫期の期間も、種類や温度、餌の条件などによって大きく変動します。チャバネゴキブリのように条件が良ければ2ヶ月程度で成虫になる種類もいれば、クロゴキブリのように1年以上かかる種類もいます。最後の脱皮(終齢幼虫からの脱皮)を終えると、ようやく翅を持った「成虫」となります。成虫になると、脱皮は行わず、繁殖活動を開始します。このように、ゴキブリの幼虫期は、卵から成虫へと繋がる重要な成長段階であり、同時に数を増やしていくための準備期間でもあります。家の中で幼虫を見かけるということは、このライフサイクルが家の中で回っている可能性を示唆しているのです。